泣かせる長編サスペンス
ANGEL HANDS
シリーズ全エピソード完結!

遂に待望の電子書籍化、
絶賛発売中!!




■EPISODE 1 「エンジェル・ハンズ」

※書籍化に伴い、当サイトでの閲覧は終了致しました。
何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。
「ファイアー・ウォール」「タイム・キラー」は引き続き閲覧可能です。

恵比寿五差路に近い一軒のロックバー。
店の“テンシュ”と常連客には、共通の不幸な過去が生んだ秘密の固い絆があった。
彼らが命を懸けて立ち向かう“鬼”とは?
■EPISODE 2 「ファイアー・ウォール」

〜悲劇の始まりは1999年の大晦日だった〜

恋人と肉親を一度に殺められた少年は、
やがて仲間と出会い、理不尽な犯罪と闘う“防火壁”となることを誓う。
不完全な法が、その許されざる犯人を野に放った時…。
 
■EPISODE 3 「タイム・キラー」

〜私は“愛”のために“時”を殺した〜

1980年に起きた少年誘拐事件。身代金を運んだ父親は、二度と戻ってはこなかった。
時効成立直後、発見された三つの遺体。
昭和と平成、二つの時代の運命が再び交差したとき
そこに見えた驚くべき事実とは?

■SPIN-OFF STORY 「ディープ・フォール・ブルー」

〜誰かを想う気持ちは、晩秋になりやっと熟成する〜

R15 ストーリーに一部暴力的な表現が含まれますのでご注意下さい。

2011年01月09日

ディープ・フォール・ブルー<1>

story by ワダマサシ



季節の変わり目に起こった出来事は、その新鮮な空気感とともにタグつきで保存されるせいか、より鮮明に記憶に残るものだ。
でも、これから話すことをオレがこれほどよく憶えているのは、それだけが理由ではない。
あれは池袋の鳩小屋が6番に襲撃され丸焼けになる一ヶ月ばかり前のことだから、たぶんあの年の10月中旬のことだった。

オレは、湘南藤沢キャンパスから恵比寿五差路に向かって突き進むビッグ・スクーターのサドルの上にいた。
ケツがあのマシーンと接している時だけは、全てから解き放たれ本当の自分になれる気がする。
あの日、Tシャツとウインドブレーカーの隙間を通り抜けていった風は透明に乾きなんとも気持ち良かったが、アクセルを握る剥き出しのコブシが久しぶりに皮のグローブを恋しがってたっけ。
見上げると、吸い込まれそうな青空に鰯雲が群泳し、銀杏並木はもうすっかり檸檬色に染まっていた。
脳みそまで筋肉で出来ていると口の悪い友人は揶揄するが、こんなリリカルな表現がサクサク出来るくらい、オレには見かけによらずセンシティヴなところがあるのだ。
その時も、視界の両サイドを帯状に飛び去っていく秋景色を背景にセットして、東京へと一点に収斂する第三京浜を怖い顔でニラみつけながらオレはセンチな思索に没頭していた。
何を想っていたのかって?
オレはその時前向きに、自分のこれから先の人生ってヤツを俯瞰して見ようとしていたのさ。
復讐の鬼と化した高野俊は、いったいどこに向かって進もうとしているんだ?…ってね。
卒業もせずにいきなり休学届けを出し渡米して過ごした3年ほどの月日は、ランボーのような肉体と引き換えに、オレをプチ浦島太郎に変えてしまっていた。
クラスの仲間達はみんなとっくに社会に出てキャンパスにはいなかったし、戻った研究室は、四六時中携帯ゲーム機を操るか女の話しかしないような年下のガキみたいな学生ばかり。
話をしてもチンプンカンプン、そう言いたいのは向こうの方もだってことは百も承知なのだが。
でもオレはスタンダードな価値観の人生を捨てたおかげで、かけがえのない仲間を手に入れた。
今もしもオレの居場所がどこにあるのかと尋ねられたなら、それは“同心”ですと躊躇わず答えるだろう。
心をひとつに出来る大切な仲間たちと、復讐のために命を賭けて闘い続ける人生。
それだけで一生が終わってしまっても一向に構わないし、甘んじて受け入れる覚悟は出来ている。
しかし、このハガネのような身体の中にまだ留まっている人並みの無邪気な気持ちを、たまには開放してやりたくなる時があるのさ。
ああ、何が言いたいのかわからなくなってきたぞ。
正直に言おう、オレは発情期を迎えたクマのように、語り合う異性が欲しくなっていたのかもしれないな。
「うしろから夕焼けが追いかけてきているようだ…」
オレは思わず意味のない一言を吐き出していた。
たった一人のサドルの上は、やるせない想いを堂々巡りさせるには最適の場所だったのだ。

なにも急ぐ理由のなかったオレは、切ない自問自答をむしろ楽しみながら、夕暮れ迫る246号線から山手通りへと右折していた。
裏道を使わずに、わざわざ恵比寿駅のロータリーからピーコックの前を通って、いつものように五差路へ。
少し遠回りだが、これは欠かすことの出来ないオレのお百度参りのようなもの。
こうすると、清田さんの亡くなった五差路の北西の角のすぐ横をかすめる事が出来るのだ。
渡米していたオレは、代わりに仇を討ってくれた同心の先達である清田翁と結局一度も会う事が出来なかった。
それだけに清田翁に寄せる気持ちは強烈で、この時にはすでにカルトに近いものになっていた。
(あれ?誰だろう。菜穂さんではないようだが…)
同心の聖地に置かれたコーラの瓶に、白い花を手向ける女性の“信者”の後姿が見えていた。
そばに近づくと、それは菜穂さんよりもずっと若くスレンダーな女性で、白い花はマーガレットのようだった。
本場のヤンキー仕込みのフランクな性格なオレは、スクーターを降りて彼女に話しかけることにした。
もちろんヨコシマな気持ちなど微塵もなく、敬虔な信者として清田さんに祈りを捧げる人物を知るために。
「ゴホン、あの…失礼ですが、き、清田さんのお知り合いですか?」
フランクとはほど遠い、緊張感まるだしの台詞がもつれる唇から飛び出した。
考えてみれば、女性相手のこの種のトークはいつ以来だろう?
肩のところでシャギーにカットされた輝く髪が、秋風にそよいでいる。
びっくりしたように振り向いたその娘は、オレの想像よりもずっと若くコーラ瓶に生けられた純白の花よりも清楚だった。
「え?はい。あなたは?」
「オレ?」オウム返しの質問が、オレをさらに動揺させる。「清田さんの…、ええと、ええ、ええ…知り合いです」
「どういうご関係だったですか?」マーガレット姫は興味津々風に訊いた。
同心はこんな質問に対する返答マニュアルを準備しておくべきだと、オレはその時思っていた。
清田さんとの関係はうまく説明は出来なかったが、お互いに故人にゆかりの深い者としてシンパシーを感じ、五差路の角でオレたちはスローな立ち話を始めた。
「キレイなマーガレットですね」オレは苦手ジャンルの会話に踏み込もうとしていた。
「ああ、これ?浜菊ですけど。マーガレットは春まで咲かないかも」ニコっと笑いながらマーガレット姫は言った。
「あ、そっすか…。名前訊いてもいいっすか?」口走ったオレが自分の唐突な切込みに一番驚き、あわてて先に名乗った。「オレ高野っていいます」
「私は、深田アオイです」
再会の必要を本能的に感じたオレは、咄嗟にポケットに入っていたエンジェル・ハンズのショップカードをまるで名刺のように差し出していた。
「オレ、いつもここにいますから、今度飲みましょう」なんとか上手に言えた。
白い花の名前はマーガレットではなかったが、これがオレとマーガレット姫との出会いだった。



続く…

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☆EPISODE1 【エンジェル・ハンズ】目次はこちら☆
posted by エンジェル・ハンズ at 09:55| Comment(0) | ディープ・フォール・ブルー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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