泣かせる長編サスペンス
ANGEL HANDS
シリーズ全エピソード完結!

遂に待望の電子書籍化、
絶賛発売中!!




■EPISODE 1 「エンジェル・ハンズ」

※書籍化に伴い、当サイトでの閲覧は終了致しました。
何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。
「ファイアー・ウォール」「タイム・キラー」は引き続き閲覧可能です。

恵比寿五差路に近い一軒のロックバー。
店の“テンシュ”と常連客には、共通の不幸な過去が生んだ秘密の固い絆があった。
彼らが命を懸けて立ち向かう“鬼”とは?
■EPISODE 2 「ファイアー・ウォール」

〜悲劇の始まりは1999年の大晦日だった〜

恋人と肉親を一度に殺められた少年は、
やがて仲間と出会い、理不尽な犯罪と闘う“防火壁”となることを誓う。
不完全な法が、その許されざる犯人を野に放った時…。
 
■EPISODE 3 「タイム・キラー」

〜私は“愛”のために“時”を殺した〜

1980年に起きた少年誘拐事件。身代金を運んだ父親は、二度と戻ってはこなかった。
時効成立直後、発見された三つの遺体。
昭和と平成、二つの時代の運命が再び交差したとき
そこに見えた驚くべき事実とは?

■SPIN-OFF STORY 「ディープ・フォール・ブルー」

〜誰かを想う気持ちは、晩秋になりやっと熟成する〜

R15 ストーリーに一部暴力的な表現が含まれますのでご注意下さい。

2011年01月23日

#00 プロローグ〜三日月と砂時計

story by ワダマサシ



深い深い森の奥。
老木の節くれだった幹に絡みついた山蔦の太い弦(つる)の先端が、大蛇のような気味の悪い螺旋を描いて、月明かりの下でゆらゆら揺れている。
せせらぎに弾ける泡音に混ざって聞こえる、岩を叩く水飛沫のざわめき。
おそらく、ここからそう遠くない場所に小さな滝でもあるのだろう。
そのためか、鬱蒼とした雑木林に張りつめた妖しい夜気には、独特の湿り気が混ざりこんでいた。
四角く切り取られた夜空に、ポッカリと浮かぶ哀しげな三日月。
坂東保(ばんどうたもつ)は、これ以上ない窮屈な姿勢のまま、木々の隙間から零れてくるその蒼白い仄灯りを、薄目を開け見上げていた。
保が横たわっている薄暗い場所、そこは絶望と言う名の砂時計の底だった。
初秋の夜風が連れてきた森の虫けら達の騒ぐ声が、狭い竪穴の空間にくぐもって、逆に不穏な静寂をつくる。
鼻腔に入り込んでくる、雨露を含んで半分液化した腐葉土のツンとくる匂い。
それは同時に目尻からも侵入して、保の視界をどす黒く汚しはじめていた。
何度か瞬きを繰り返し、眼球から異物を取り除こうとするが、そんな些細な動作すらすでに緩慢になっている。
保の身体の自由を奪っているのは、手足に幾重にも巻かれた白い木綿縄と、許容量を遥かに超えて服用させられた睡眠薬の力だった。
この期に及んで、不運にも意識が蘇ってしまったことを心から後悔しつつ、せめて自分が今ここにいる確かな理由を知るために、保は暗い穴の底を必死に探っていく。
――タカシ、タカシはどこなんだ…?!
直近の記憶をたどり、自分の真後ろに並んで寝かされているはずの息子を一目見るために、保は残された力を振り絞り寝返りを打とうと試みる。
しかしどんなに頑張っても、まるで金縛りに遭ったように身体を動かすことは叶わない。
それでもなんとか瞳と首を限界まで回し、魔物に囚われた父親は、視界の右端に月明かりに照らされた愛する一人息子の小さな頭の存在を確認した。
かつて陽だまりの干草の匂いを心地よく振り撒いたタカシのサラサラの髪も、今では泥にまみれ、ところどころが醜い束になっている。
――ああ…、なんという事だ…!
口に巻きつけられたままの猿轡(さるぐつわ)のせいで、保は声を上げる事が出来ない。
――タカシ!タカシ…!
心で叫びながら、保はその生死だけでも確認しようと、自分の背中を愛息の小さな体に押し付けようと、もがきはじめていた。
やがて背中から伝わってくる、ゴツゴツと鉛のように硬直し冷え切った身体の感触。
保はすぐに、タカシの魂が自分より先に旅立ち、もう亡骸がこの森の土と同化を始めてしまったことを知る。
同時に、堰を切って溢れ出してくる涙。
しかし極限の絶望は、むしろ人を落ち着かせるものなのかもしれない。
保は、タカシがもうこれ以上苦しまずに済むであろう事、そしてここが二人の墓場になるのならこうして並んで眠れる事に、安堵する心境になっていた。
ザザッ、ザッ、ザッ…。
死の砂時計が、時を刻み始めたようだ。
穴の底に土砂を満たそうと、魔物がスコップを操っている。
その規則的なノイズを耳鳴りのように聞きながら、保はこれから起こることをただ恐れるよりも、自分達がいなくなった後の世界について、想いを巡らせることにする。
――タカシやオレがいなくなっても、和江はちゃんと生きていけるのだろうか?
最期まで“人の心”を信じて警察に知らせなかった自分の愚かさが生んだこの最悪の結末は、残された妻の小さな背中が一生負っていかなければならないのだ。
保は愛妻の笑顔を思い出し、無念の涙を流し続けた。
ザッ、ザッ、ザッ…
保の余命を完全に掌握している死神の淡々とした作業の音が、砂時計の内部に虚しく反響する。
顔面に堆積する土砂が、そろそろ保の視界を全て奪おうとしていた。
保は首を振り土を払い除けると、もう一度だけ上を見上げ、死神の顔を怨みを込めて睨みつけようとした。
ザザッ、ザッ、ザザッ…
死神は、保のその視線を畏れたのか、スコップの動きを急に速めた。
保は迫り来る死の恐怖の中で、背中を愛息に押し付け出来る限り一つの塊りになろうとしていた。
その時、ここに連れて来られた時に“穴が二つ”掘られていたのを見たことを、保はボンヤリと思いだす。
――なぜだ…?
それが、保の人生を締めくくる答え無き疑問になった。
ザッ、ザッ、ザザッ、ザザッ…
保は、最後の息を慈しむように味わい終えると、潔くすべてを思い切り吐き出し、まるで夜の海に飛び込むように、自ら死の淵にゆっくりとダイブしていった。



#01バースディに続く…

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posted by エンジェル・ハンズ at 14:22| Comment(0) | タイム・キラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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