泣かせる長編サスペンス
ANGEL HANDS
シリーズ全エピソード完結!

遂に待望の電子書籍化、
絶賛発売中!!




■EPISODE 1 「エンジェル・ハンズ」

※書籍化に伴い、当サイトでの閲覧は終了致しました。
何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。
「ファイアー・ウォール」「タイム・キラー」は引き続き閲覧可能です。

恵比寿五差路に近い一軒のロックバー。
店の“テンシュ”と常連客には、共通の不幸な過去が生んだ秘密の固い絆があった。
彼らが命を懸けて立ち向かう“鬼”とは?
■EPISODE 2 「ファイアー・ウォール」

〜悲劇の始まりは1999年の大晦日だった〜

恋人と肉親を一度に殺められた少年は、
やがて仲間と出会い、理不尽な犯罪と闘う“防火壁”となることを誓う。
不完全な法が、その許されざる犯人を野に放った時…。
 
■EPISODE 3 「タイム・キラー」

〜私は“愛”のために“時”を殺した〜

1980年に起きた少年誘拐事件。身代金を運んだ父親は、二度と戻ってはこなかった。
時効成立直後、発見された三つの遺体。
昭和と平成、二つの時代の運命が再び交差したとき
そこに見えた驚くべき事実とは?

■SPIN-OFF STORY 「ディープ・フォール・ブルー」

〜誰かを想う気持ちは、晩秋になりやっと熟成する〜

R15 ストーリーに一部暴力的な表現が含まれますのでご注意下さい。

2010年09月26日

ファイアー・ウォール プロローグ

story by ワダマサシ



<ミレニアム・イブ>

――1999年12月31日。
例年よりもずっと厭世観の漂う、不思議な年の瀬だった。
ミレニアム(新千年紀)を迎えるにあたり、それは当然のことではあったが、世界中が世紀末の雰囲気に妙に浮き足立っているようだった。
その上、例の「2000年問題」も巷の話題の中心にあり、その退廃的なムード作りに一役買っていた。
憶えているだろうか?
グレゴリオ暦の2000年になると、世界中のコンピューターが現在時間を1900年と誤認し一斉に誤作動を起こす可能性があり、もしかするとそれをきっかけに大パニックが発生するのではと、あの時は科学者までもがそれを真剣に恐れていた。
危機発生を懸念されていたのは、システムを旧式のコンピューターに頼るインフラの全てで、例えば送電装置の不具合による停電、水道の供給停止、鉄道や航空管制の機能停止、果てはミサイルの誤射までもその俎上に上った。
都市の機能は停止し、飛行機はそこら中で墜落、戦争が始まるとまで言う輩まで大勢いた。
世界中にある無数の旧式コンピューターのプログラムを全て訂正するのは不可能である以上、実際なにが起きてもおかしくなかったのだ。
結果的には2000年問題はほぼ危惧に終わり、起きたのは発電所の警報装置が誤報を伝える程度の軽微な異常のみ。
しかし飛山翔(とびやま・しょう)にとってみれば、あれは正に世界の終わりに等しい大晦日だったのだ。

当時高校2年だった翔の周囲でも、2000年問題は興味深い話題だった。
しかし、それを恐れるというよりは、他のPCマニアの若者たちと同じように、彼も1999年の大晦日が地球最後の日になるという妄想を、まるで台風を迎える子供のように半分楽しんでいた。
最期の審判の時を、いったい誰と迎えるべきか?
翔はその相手として、藤村有香を躊躇わずに選んだ。
大晦日の夕方からお互いに家を抜け出し、東京で一番デジタルのパニックと縁遠い「アナログ」な街で夜明かしをしようと約束をした。
待ち合わせは、夕方5時半。
場所は雷門浅草寺の入り口にぶら下がる有名な大きな赤提灯の真下。
二人っきりのオールは初めてのことだったので、師走の人ごみに立つ翔は寒さを忘れ舞い上がっていた。
「わっ!」有香が、いきなり翔の背中を背後から襲った。「お待たせ」
「おお、びっくりしたなあ、もう」妙に大人っぽい格好の有香を眩しそうに見て翔は言った。「制服じゃないと、どっかのOLみたいだね」
「そう?」有香が嬉しそうに笑う。
「これなら、居酒屋も問題ねえだろ」
翔もこの夜に備えバイト代をかき集めて買った、インチキ臭いカシミアもどきの黒いロング・コートを自慢げに纏っていた。
「ううん…微妙だな」有香は翔の格好を上から下までゆっくりと観察する。「GLAYのメンバーみたい。でも鼻水出てるよ」
「やべ…」
仲見世通りを浅草寺の境内の方にゆっくりと歩きながら、二人はお互いを暖めあうようにごく自然に手をつないでいた。
慣れた風を装ってみても、ちゃんと付き合うのは有香が生まれて初めてのこと。
翔の心臓はドキドキと正直に青春の緊張を脳に伝え、脚がもつれそうになるのを必死で堪えていた。
有香もそれなりにまじめな娘で、ミレニアムにかこつけたこの日の二人の行動は、限界を越えるほど大胆なものだった。
少なくとも、ここまでは翔はそう信じていた。

大晦日の仲見世通りは気の早い初詣客で賑わい、まるで田舎のバーゲン会場のようだった。
300メートルはある長く狭い参道の左右に並ぶ商店は、この日のために準備したお土産品の数々をワゴンに載せ、参拝客の足を止めようと躍起になっている。
しかし、どれも誰が買うのかとあきれるようなガラクタばかりで、翔はそれが可笑しくてしょうがなかった。
「なんだよ、このマイケル・ジャクソンのかぶり物は!?」翔はそれを試着しおどけて踊ってみせる。「アウッ!」
「もしかして、馬鹿…?」有香があきれてそれを眺めている。
羽目を外して悪ふざけをしながら、翔はあらためて二人でいる時の居心地のよさを堪能していた。
生まれ年は同じだが、学年は一年上。
姉の大親友でもある有香は、翔にとってずっと前からの憧れの存在だったのだ。
「こら!翔…」
「ん?」その聞きなれた声に驚いた翔がゴム製のマイケルを脱ぐと、目の前に姉の顔があった。
「え?なんでここにいるわけ?!」
「ごめん、ごめん」有香が代わりに翔に手を合わせる。「希(のぞみ)が一人ぼっちで可哀相だから…」
「勘弁してくれよ…」
翔は漠然と抱いていた期待がすっかり泡と消え去ったことに落胆し、寒さのせいじゃなく涙目になっていた。
「翔くん、ごめんね」有香が上手な言い方で俺を慰める。「でも、今日で世界が終わるかもしれないんだよ。親友とも一緒にいたいじゃない」
「…」翔は口を尖らせたまま、その正論に返す言葉もない。
「さあ、とりあえず何かおいしいもの食べに行こう!」デリカシーのない希が有香の手を引きさっさと歩き出す。「翔も元気出して!」
有香を挟んで微妙なバランスを保った3人組は、1900年代最後の大晦日の浅草を探検し始めた。
花やしきの横を走る伝法院通りの居酒屋の店先で、大鍋で振舞われる煮込みを立ち食いするうちに、翔もこの特殊な状況に慣れ、なんだかすっかり楽しい気分になっていた。
「今日、世界が終わっても別にいっか!」
不穏な発言を口走った翔を先頭に、3人はその居酒屋に勇気を出して突入する。
初めて味わう少しだけ焼酎の入ったレモン水を飲み、翔はさらに気を大きくしていた。
「飛山翔、初体験の一気飲みやらせていただきます!」
「バカ、やめなさいよ」
「まったくもう…」
姉たちの忠告を無視した翔はあっと言う間に出来上がり、再び通りに戻ったときには真っ直ぐに歩けなくなっていた。
それでも千鳥足で二人を先導し、翔は浅草ROXの裏のカラオケボックスに入っていった。
すえた匂いの漂う狭い部屋で、マイクを奪い合って熱唱しているうちにあっという間に時間が経ち、気がつくとミレニアムを迎える瞬間が目前に迫ってきていた。
カラオケボックスのモニターをテレビ放送に切り替えると、民放が日本中の街の喧騒を次々に映し出し、カウント・ダウンがもう始まろうとしていた。
小さなテーブルを囲んだ3人はお互いの手を握りあって三角形を作り、その時を待った。
「10、9、8、7、6」
有香の手が1秒毎に強く翔の手を握ってくる。
「5!4!3!2!1!ハッピー・ミレニアム!!」
そして、3人は抱き合って千年に一度の貴重な瞬間を共に迎えたのだ。
「なぁんにも起きなかったね」有香が言う。「電気も消えてないし」
「まだわかんねえぞ」翔はそう応えながらも、何も起きないことを確信していた。
それほど翔の周辺の小さな世界は、幸せな空気で満たされていたのだ。
とりあえず2000年が無事に始まったことを確認すると、3人は酔い覚ましを兼ね浅草寺へと向かう仲見世通りの初詣の列に加わった。
新春を迎えたばかりの参道は、さすがに立錐の余地もない程の混雑だった。
最初はなんとか3人くっついて寿司詰めの人混みを歩いていたが、そのうち店の商品に気を取られた翔だけがとり残され、二人の姿を見失ってしまう。
そして、それが翔と二人との永遠の別れになった。


続く…

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posted by エンジェル・ハンズ at 22:40| Comment(0) | ファイアー・ウォール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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